グレート・ムタの毒霧

プロレスとは、格闘技とファンタジーを融合させた特殊なジャンルですが、そんなファンタジーの部分を最も体現した技が毒霧だと思います。

毒霧を技といって良いのかは微妙かも知れませんが、単なる反則攻撃といっても 元を辿ればグレート・カブキが苦心の末に編み出した技術であり、プロレスがファンタジー要素を含んだジャンルである以上は、やはりプロレス技の一種と言えるんじゃないでしょうか。

 

毒霧の元祖はカブキですが、平成からプロレスを見始めた人は、やはりムタのイメージが強いでしょう。

90年代のムタは、テレビにもバンバン出てたし IWGPヘビー級王者にもなったりと実力に実績がついてくる活躍をしていた為に、とにかくメディアへの露出が高かったので、ムタが毒霧を吹く姿を目にした人は多いと思います。

 

そしてムタの毒霧が強烈なインパクトを残したのは、ド派手なコスチュームやド派手な入場に加えて、そのビジュアルの良さによる所も大きかったでしょうが、何といっても試合の中での毒霧の使い方が、余りにも天才的だったから。

相手の攻撃に対して カウンターで食らわせるのは当たり前として

パワーボムで抱えあげられた時や、雪崩式フランケンの際にコーナー上でとか…当時としては他の選手には到底思い付かない様なバリエーションで、相手の顔を染めまくってましたからね。

 

特に1997年にプロレス転向を果たし、まだ柔道着をまとい柔道色の強かった小川直也との対戦時に、三角絞めを極められたムタが、絞められたまま上から毒霧を浴びせて脱出した場面は、痛快その物でした。

まだ「小川=プロレスラー」という認識が固まってない時代で、プロレスの外から来た小川に対して、小川のスタイルに合わせる事なく プロレスの洗礼を浴びせたムタが非常にカッコよく見えたし頼もしくも見えました。

当然ですが、柔道で毒霧なんか喰らった事など無いだろうから、小川も面喰らったでしょうね。

 

まぁ毒霧は反則といえば反則なんですが、その反則もプロレスならでは。

一発で反則になる事もあれば、レフェリーの目の前でやっても反則にならない事があるのもプロレスならでは。

ムタが木戸修に毒霧をかけたのに、なぜか武藤敬司が数日間 口を聞いて貰えなかったのも、そこまでがプロレス。

「いつ種を仕込んでいる」とか無粋な事を言う人もいますが、あれには種なんかありません!

それで良いんです。

 

ムタが毒霧を吹く直前の仕草から、吹いている時、そして吹き終わった後の仕草まで全てが絵になります。

それで充分です。

 

毒霧とはプロレスの「ファンタジー」の部分が凝縮されている素晴らしい技だと思います。