鉄人・小橋建太がリングを降りた日

2013年5月11日は、鉄人・小橋建太がリングを去った日です。

 

どんなに身体を鍛えているプロレスラーと言えども一人の人間。

人間である以上 年齢の事や気力や体力の限界、怪我や病気等の様々な理由で、リングを降りる日は、必ずやって来ます。

それは鉄人と呼ばれた小橋建太と言えども例外では有りませんでした。

 

現役時代は誰よりも激しい戦いを続けて来た小橋だけに、若い頃から既に小橋の身体はボロボロで、ヒザに至っては何度も手術を行なっています。

90年代後半から、NOAH移籍後にかけてはプロレス史上に残る大激闘を潜り抜けて来た訳ですが、絶対王者と言われるまでの活躍を見せながらも、その代償として小橋の身体には激戦のダメージが蓄積されていったのです。

 

加えて2006年6月には腎臓ガンが発覚し、右腎臓の摘出。

小橋の身体は、病魔にまで蝕まれていたのです。

この当時のショックは、相当な物だったのを今でも覚えています。

今回ばかりは、誰もが小橋引退を覚悟しましたが、2007年12月に小橋は不屈の闘志で546日ぶりの奇跡の復帰を果たしリングに帰って来ました。

 

本来ならば、プロレスに復帰など出来る筈もなく 出来たとしても前座で落ち着くなり、負担の少ないファイトスタイルに変えるなり、妥協する所を見つけそうな物ですが、小橋はそれを良しとはしませんでした。

小橋はいつだって全力投球。

GHCヘビー級の最高峰の闘いにこそ絡む事は有りませんでしたが、リングに立つ以上は己の信念を曲げる事は決して無く、小橋は欠場前とちっとも変らない熱いファイトを展開し続けました。

 

しかし現実は残酷

その後も肘や膝の故障にも苦しみ、長期欠場と復帰を何度も繰り返していましたが、2012年7月に行った首の手術後のコンディションが思わしくなく 小橋は遂にある結論に達する事になりました。

「これ以上、小橋建太のプロレスができない」

自分が小橋建太である以上 小橋建太のファイトが出来ないのなら、それはリングを降りる時・・・これまで自らの全てをプロレスに捧げて、リングに全てを懸けて来た男の悲壮の決意でした。

 

2013年12月 小橋建太引退

 

この決断は小橋にとっては、どれ程重い決断だったのでしょうか?

しかし小橋は、ファンの目の前で小橋建太のファイトを見せれなくなってしまった時は、ケジメとしちて きちんと引退試合を行おうという考えは常々持っていたのです。

師匠ジャイアント馬場

兄貴分でもあった三沢光晴

この2人は現役にして 志半ばで旅立ってしまい、引退試合を行う事が出来なかったので、せめて自分だけでも その時が来たら、ファンの目の前でちゃんとお別れをしようと・・・そう決意していたのです。

 

2013年5月11日

小橋にとっても思い出の地 日本武道館で、その時は訪れました。

最後の小橋の勇姿を見る為に、武道館には1万7000人もの観客が押し寄せ、引退試合の前に行われたセレモニーでは、かつて四天王として共に全日本を支えた川田利明、田上明をはじめ、団体は違えど同じ時代を生きた蝶野正洋。

そして高い壁であり続けたスタン・ハンセンの来場に加えて、盟友ジョニー・エースもコメントを寄せて小橋を労います。

 

こうして ついに始まった小橋建太最後の試合は、秋山準&武藤敬司&佐々木健介との豪華カルテッドで、対戦相手はKENTA&潮崎豪&金丸義信&マイバッハ谷口・・と自身の付き人を務めた事のある4人。

小橋にとって馴染みの深い7人と、同じリングに立った最後のこの瞬間に、小橋の胸にはどんな思いがあったのでしょうか? かつての弟子達の激しい全身全霊の攻撃をその身体で受け止めて行きます。

 

もちろん小橋も全力で返して行きます。

本当にこれで引退してしまうのか?と言う位に、最後の最後まで小橋は小橋でした。

そして最後の時は訪れます。

武藤のムーンサルトプレスのアシストを受けて、小橋も青春の握りこぶしから万感の思いを込めて人生最後のムーンサルトプレス!!

 

この一撃で金丸をフォールして 25年に及ぶプロレス人生を有終の美で飾り、見事なピリオドを打ちました。

 

「とうとうこの日が来ました。26年前、入門して色んな事がありました。しかし自分自身で、決断して歩んできたプロレス人生に悔いはありません。最高のプロレス人生を送る事ができました」

 

プロレスと引き換えに失った物は、大きかったと思います。

自分の身体にどれ程のメスを入れて来たのかも分からないだろうし、日常生活には支障をきたさないと言ったら嘘になるでしょう。

でも小橋が言うように「プロレス人生に悔いはありません」この言葉に嘘は無いでしょう。

 

小橋建太のプロレス人生は、悔いを残さない為に、大好きなプロレスの為に、一度もアクセルを緩める事無く全力で駆け抜けた25年間のプロレス人生でした。 

最後に「あなたにとってプロレスって何ですか?」の問いには、これまでなかなか答えを出せなかったという小橋ですが、最後の最後にようやく答えが見つかったそうで、実に晴々としたした表情でこう言いました。

 

「僕の青春だった」・・・と

 

2013年5月11日は、鉄人・小橋建太がリングを去った日でした。