1·5の東京ドーム大会を終えて、難敵KENTAから、見事にIWGP USヘビー級奪回に成功した棚橋弘至ですが、そこにあったのは喜びよりも虚無感だけでした。
考えてみればそれもその筈
棚橋はファン時代から 藤波辰爾や武藤敬司に憧れてプロレスラーになった選手なので、棚橋が本来やりたかったプロレスは、もっとクラシカルで基本に忠実なレスリングなんですよね。
しかし棚橋の脱ヤングライオンの時代は、新日本は暗黒期真っただ中で、離れて行った人を繋ぎとめる為・・・または新たなファンの目を引く為には、派手な飛び技を使ったりと自分のやりたいスタイルを犠牲にして来た部分があったと、本人は語っています。
それもACEとして新日本を引っ張っていく為の使命感から来るものだったのですが、2021年には不調に苦しむ棚橋が、完全復活への足がかりへとせっかく掴んだIWGP USヘビー級をKENTAに奪われてしまいます。
何としても王座を奪回したい棚橋は、リマッチを申し込む為になりゆきとは言え、ノーDQマッチと言う 本来は棚橋がやりたかったプロレスとは対極のプロレスをやる事になってしまいました。
試合は様々な凶器が飛び交う大荒れの展開となり、棚橋は王座奪回に成功するも そこに勝利の喜びはありませんでした。
試合終盤に棚橋に、5mのラダー上から落とされたKENTAは「鼻骨骨折、左股関節後方脱臼骨折、背部裂傷縫合術、左環指腱性槌指」の大怪我を負ってしまい、1.8の横浜アリーナ大会も欠場する事になってしまいました。
試合の流れでのアクシデントとは言え、5mラダーを持ちこんだのはKENTA本人だったと言え 実際に対戦相手が大怪我を負ってしまった事。
リング上で普段の新日本では余り見られない凶器攻撃が飛び交いまくった事は、明らかにプロレスラーになる事を夢見ていた棚橋少年のやりたかったプロレスではありません。
「嬉しいとか、悲しいとか、悔しいとか、何の感情も残ってないです。ただ…ただあるのは虚無感……。虚しいだけ…。なんで俺プロレスラーになったのかな………。プロレスラーである自分を誇りに思いたくて……。ベルトは返ってきたけど、どっからスタートすれば良いのか分からないです」
「ああ、藤波さんが好きだったなあ……。ああ、武藤さんに憧れたな。で、今これか…。ああ……レスリングやりたいね。誰だ、SANADAとか? こってこての60分フルタイムドローのレスリングやりたいよ」
棚橋の試合後のコメントを見ると 痛いほどに棚橋の苦悩が伝わって来ます。
こんなに苦悩する位なら新日本のリングで、ノーDQマッチをやるべきじゃなかったのか?
答えは”否”だと思います。
ノーDQマッチを棚橋がやった事は、決して無駄では無かったと信じたいです。
5mのラダーに登ったKENTAや
それを落とした棚橋と落ちたKENTA
そして そこから飛んだ棚橋
新日のリングでノーDQマッチをやった2人
その全てが、強烈な覚悟の表れなので、その覚悟を見れただけでも大きな意味は有ったと思います。
結果的にKENTAは、1.8を欠場する事になってしまいましたが、怪我をしたKENTA本人も敗北を認め棚橋の事を認める発言も残しています。
話題にもなったし、試合も盛り上がりを見せました。
棚橋のやりたかったプロレスとは、少し回り道をしてしまったかも知れませんが、次の相手にはSANADAを指名しているし、棚橋にとってはSANADAとのレスリングは、一種の清涼剤になるでしょう。
あのノーDQマッチは、棚橋もKENTAも株を上げた一戦なのは間違い無いので、ここからは気持ちを切り替えて、SANADAとのUSヘビー級戦で大きくリフレッシュして貰い、 そして太陽がまた高く光り輝く事を信じています。