1990年のプロレス界は、大激震に見舞われました。
メガネスーパーを母体に持つSWSが旗揚げをして 新日本プロレスと全日本プロレスから大量の選手を引き抜き選手を確保したのです。
新日本は、ジョージ高野と佐野直喜の2名だけで済んだので、ダメージは最小限に抑えれましたが、全日本に関してはエースの天龍源一郎をはじめグレート・カブキや谷津嘉章の主力勢らまでもが、ごそっと移籍してしまいました。
何せSWSは母体が、あのメガネスーパーなので、資金は豊富にあります。
恐らく移籍を持ちかけた選手は、今までよりも破格のギャラを提示されたのでしょう。
全員が金銭面で動いた訳では無いにせよ「厚待遇に釣られて所属団体を裏切った」と移籍した選手やSWS自体を業界全体が、バッシングする風潮がありました。
金より人情
当時の日本は、まだまだそんな考えも根強かった頃で、今思えばプロとして「より自分を高く評価」してくれる場所を求めるのは、自然な事だった筈です。
勿論 人情というのも人として大事な事なので、どちらが正しいと言う話では無いと思いますが・・・
アメリカなら 待遇面重視で移籍なんてのは 当時から当たり前の事でしたけどね。
とにかく当時の日本マット界では、次は「誰が辞めるんだ」と言う空気も充満しており 業界全体が、疑心暗鬼になっていた時代でした。
現に海外修行中の武藤敬司にも声が、かかっていたと言います。
もしあの時に武藤が、SWSに移籍してれば その後の日本マットの歴史は確実に大きく変わっていたでしょう。
そんな中 獣神サンダー・ライガーが、週刊ゴングのインタビューで、SWSの引き抜き騒動について語りました。
「俺が欲しければ50億用意しな」
これは、なかなかのインパクトでした。
一見すると「お金さえ積まれれば結局は移籍するのか?」と取れるかも知れませんが、いくら資金力のあるSWSと言えども 個人に50億と言う大金を用意出来る筈がありません。
それを分かった上での強烈な移籍拒否です。
実際にライガーに、SWSから打診があったのかどうかは分かりませんが、当時のライガーは既に、人気・実力・実績を兼ね備えていたので、新団体としては可能ならば当然欲しかった人材でしょう。
しかし 当時のレスラーの基準身長に達していなかったライガーは、本来ならば入門すら出来なかった筈なのですが、その熱意を認められ新日本に入門させて貰い デビューまでさせて貰った事を非常に恩義に感じています。
なので新日本を裏切る事は、有り得ないと言い切りました。
有り得ないが、SWSが50億をもし用意できたら初めて”考える”と。
「どうしても移籍する事になれば、お世話になった新日本に、半分の25億を置いていく」
SWSが、さすがに50億は用意出来ないのを承知の上で、語っていたのが印象深いです。
新日本を裏切る事はない
その言葉通りに、多くのレスラーが新日本を去っていった暗黒期にも歯を食いしばり30年後の引退まで本当に、新日本に全てを捧げてきました。
勿論 生涯移籍をしない事が、必ずしも正しい訳ではありません。
満足なギャラを貰えないので、家族の為にやむなく退団するのはしょうがない事です。
時の流れにより方向性に、ズレが生じてくるのもしょうがない話です。
ただ本当に素晴らしいと思うのは、この時の信念を30年後まで貫き通した事です。
今年の一月に、ライガーは惜しまれつつリングを降りましたが、今まで新日本を守ってくれて本当にありがとう!!と言いたいです。-