藤波辰爾のデビュー50周年記念ツアー最終戦として行われた ドラディション代々木競技場第二体育館大会。
注目のメインイベントは、藤波辰爾vs棚橋弘至の師弟対決。
棚橋は元々 藤波に憧れてプロレスラーを志した選手で、若手時代には付き人も務めており棚橋にとっては藤波は、正に特別な存在でした。
最後の対決は、2002年10月の無我後楽園大会なので、実に20年ぶりとなる師弟対決。
しかし当時の棚橋は、まだ将来有望な若手といったポジションなので、藤波に勝利した事は一度もありません。
2005年に藤波の新日本退団により、2人の接点はほぼ無くなってしまいましたが、棚橋からすれば「いつかは師匠を越えたい」そう願っていた筈です。
時は流れ棚橋は押しも押されぬトップレスラーとなり、新日本のみならず日本マット界のACEにまで登り詰め、もう一人の師匠である武藤敬司をも乗り越えた事があります。
最後の対決から20年の月日が流れ、2人供に全盛期を過ぎた今、今さら対決する事はもう無いだろうと思っていた矢先のシングル実現。
恐らくこれが最後になるであろう師弟対決。
憧れの人との遭遇に、棚橋が燃えない筈がありません。
とうに第一線を退きながらも常にチャレンジ精神を忘れない68歳になる藤波かからしても、プロレス界の”現在”を知るには、ACE棚橋との試合は絶好の機会。
これは両者にとって 待ちわびた一戦であり、迎えるべくして迎えた一戦であるとも言えます。
試合は、久々の再開を楽しむかの様にじっくりとしたレスリングを展開したかと思えば、藤波は出し惜しみ無しで次々と得意技を繰り出し、棚橋を追い込んでいきます。
しかし 今もトップ戦線で闘う棚橋は、ツイストアンドシャウトで反撃に転じるとスリングブレイドからのハイフライフロー2連弾で、完璧な3カウント。
棚橋にとっては、現在進行形のトップの力を見せつけたと同時に、師匠・藤波辰爾から、ようやく挙げた初勝利。
24年目の師匠越えです。
ファン時代からの憧れだった選手と同じ舞台に立ち、そしてそれを乗り越えてみせた棚橋は、どんな心境だったんでしょうか? 若手の頃に自分の面倒を見てくれた藤波に対する恩返しが出来た・・・という感じでしょうか。
藤波と供に並んだバックステージでは
「本当に今日戦って、藤波さんの巧さを、懐の深さを。僕はプロレスラーになりたくて、藤波さんを目標に頑張ってきて間違いじゃなかったなって今日思いました。本当に」と感無量の涙。
「泣くなよお前、引退じゃないんだぞ」と藤波に胸を張られるシーンは、良いシーンでした。
橋本真也が長州力を越えた時や、三沢光晴がジャンボ鶴田を越えて男泣きをした場面を思い出してしまいました。
弟子が師匠を越える場面には、長い時間をかけて作り上げた壮大なドラマがあり、スポーツとしては選手寿命の長いプロレスならではの感動もあります。
24年・・・確かに時間はかかりましたが、棚橋は間違いなく飛龍の魂を受け継ぎました。
棚橋は再び 新日本の頂点を掴む為に日々闘っていますが、これで益々 老けこむ訳にはいかなくなりましたね。 藤波がまだまだ現役で頑張っている以上は、弟子の棚橋が諦める訳にはいかないので、もう一度 棚橋が新日本の中心に立ち、大きな太陽で照らしてくれる事を願っています。