馳浩「健介!男なら自分の力でたってみろ!」

プロレスラーが長期欠場をしてしまった場合は、その復帰戦には所縁のある選手が相手を努める事が多い物です。

今まで数多く行われてきた様々なレスラーの長期欠場からの復帰戦で、印象に残っている物の一つが、1992年に行われた佐々木健介の復帰戦。

 

前年の1991年に、試合中のアクシデントで、左足首を骨折してしまい10カ月にも及ぶ長期欠場を余儀なくされていた健介が、ようやく復帰戦までこぎつけた際に、その対戦相手に名乗りを上げたのが、最大のライバルであり最高のパートナーだった馳浩だったのです。

馳と健介は、ほぼ同期ながらも年上で後輩の馳に、年下で先輩の健介 更に性格も全くの真逆と言う 何とも微妙な関係だったのですが、同期と言う間柄か馳健タッグとして組む事になり これまでに、IWGPタッグ王者に2度も輝いた正にベストパートナーでした。

 

そんな2人のシングル初対決と言う事もあり それだけでも期待値は高かったのですが、病み上がりとは言え 長期欠場の悔しさを全て受け止めてやる為に、立ちあがった相棒の馳と言うシチュエーションは、やはり熱い物が有りました。

 

復帰戦の前に、健介がマサ斉藤に言われた言葉「Go for Broke!」を胸に、正に当たって砕けろの精神で、欠場中の悔しさを全てぶつけるかの様に、全力で馳に向かって行きました。

しかし10カ月物ブランクは、やはり響きます。

 

最後は相手の弱点を狙う勝負の鉄則とばかりに、健介の負傷個所である左足を狙った低空ドロップキックから裏投げ連発 そしてノーザンライトスープレックスというフルコースで、完膚なきまでに健介を叩きのめしました。

この日が10カ月ぶりの実戦となる健介にとっては、余りにも厳しい攻撃でしたが、タッグパートナーとは言え 決して慣れ合う仲では無い2人。

これが戦場に戻って来た健介に対する 馳流の歓迎だったのでしょう。

 

久しぶりの実戦で大きなダメージを受けた健介は、試合後も立ちあがる事は出来ず、若手が健介を起き上らせる為に、肩を貸しに来ますが「余計な事をするな!」と馳が、若手を場外に放り投げてしまいます。

そしてマイクを持つや健介に向かって一言

 

「健介!男なら自分の力で立ってみろ!!」

 

冷たく突き放す言葉にも見えますが、リングに戻って来たからには甘えは許されない・・・俺のパートナーなら自分の立ちあがってみろ!!とパートナーであると同時、最高のライバルと認める健介を信じているからこその叱咤激励だったのだと思います。

もはや 第三者が立ちいる隙はありません。

 

全身のダメージと疲労と左足の痛みに耐えながら 健介は、誰の力も借りずに、ゆっくり起き上ろうとします。

それを何も語らず じっと見つめる馳

 

そしてフラフラになりながらも 健介は一人で立ちあがってみせました。

それを見届けると何も言わずに、リングを後にする馳。

 

こうして健介の復帰戦は、結果的には惨敗と言う形で幕を閉じましたが、心を鬼にして叱咤激励した馳と それに答えて見せた健介

この2人ならではの友情は、本当にどちらも素晴らしかったです。

どっちが勝ったとか、どっちが負けたとか、そんな物は一切関係ありません。

 

男同士の友情と言うんでしょうか

日本マット界屈指の熱いシーンでした。 

日本のプロレス界には、様々なタッグチームがありましたが、馳健ほど友情を感じさせるタッグは無かったと思います。

 

これまで友情なんか感じさせた事も無かったのに、唐突に友情タッグを結成して  あっさり仲間割れをしたチームも有りましたが、馳健タッグはそちらとは段違いでしたね。