怨念坊主がリングを去った日

2019.1.21 突如として新日本プロレスより、怨念坊主こと飯塚高史の引退が発表されました。

 

当時この発表には驚かされた物です。

飯塚は言葉を発しないキャラクターなので当然と言えば当然なのですが、引退を仄めかしたり、あのヒールファイトだと目立たないのでこれも当然なのですが、体力や精神面で限界が来てたと言うのを感じさせる事もありませんでしたから。

 

飯塚と言えば寡黙で真面目なキャラクターで、決して目立つ事もなかった立場ですが、一時期はスリーパーを武器にブレイクの兆しを見せながらも、長期欠場をきっかけに再び元の地味なポジションに戻ってしまいます。

それでも確かな実力を持ち、新日本を長年縁の下で支えて来た存在でした。

 

そんな飯塚に転機が訪れたのは、2008年。

友情タッグを結成していた天山広吉を試合中に裏切って、誰もが想像しなかったヒールターンをしてしまったのです。

スキンヘッドにして長い髭を蓄え、言葉を捨て技をほぼ使わずに、アイアンフィンガーフロムヘルで暴走しまくる極悪レスラーに変貌。

 

長いキャリアの中では、ヒールターンする時期もあるだろうとは思っていましたが、その余りの変貌っぷりは見事だったし、最後の最後まで徹底した姿勢を見せるとは、思いもしませんでした。

引退試合まで僅か一ヶ月と言う、急なスケジュールの中で、かつての友情タッグの相棒·天山は何度も飯塚に、かつての心を思い出す様に呼び掛けます。

しかし飯塚は聞く耳持たず、暴走しまくる毎日。 でも最後の最後には、元の飯塚に戻ってくれるだろう。

そう思っていました。

それを期待していた人も多いでしょう。

 

大きな変化が現れないまま迎えた

2019·2·21 飯塚高史引退試合。

鈴木、タイチ、飯塚vsオカダ、矢野、天山

 

これが最後のチャンスと試合中にも闘いを通じて天山は何度も呼び掛けました。

飯塚にそんな天山声が届いたのか、スリーパーホールド、ビクトル膝十字固め、そして未遂に終わりましたが、ブリザードスープレックスと かつてのテクニシャンぶりを思わせる動きを披露して見せた飯塚は、明らかに迷っていました。

もしかして?

誰もがそう思っていましたが、極悪ファイトを貫く飯塚に、天山プレスを炸裂させてかつての盟友·天山の手により介錯をされた飯塚はレスラー人生を終える事になります。

 

しかし 試合後に天山は、飯塚に握手を求めながら最後の呼び掛けを行うと、頭を抱え込み叫びながら飯塚は、握手を握り返そうとする自分の手を必死に押さえながら、苦悩の表情。

明らかに過去の記憶が戻ろうとしているのか、飯塚の葛藤が手に取る様に分かります。

場内に響く飯塚コール! 

 

そして遂に、飯塚は天山の手を握り返しました!

11年に及ぶ飯塚の怨念が晴れた瞬間でした……と誰もがそう思った矢先に、飯塚はまさかの天山に噛みつき攻撃!

更にイスで滅多打ちにすると、最後はアイアンフィンガーフロムヘルを食らわせ退場していったのです。

 

これは、まさかの展開

ハッピーエンドを想像していた人は、この展開に度肝を抜かれたでしょうね。

 

その後 飯塚は再びリングに戻る事はなく、本人不在の中 10カウントゴングが打ち鳴らされると言う異例の事態に。

飯塚が元に戻る姿を期待していた人は、もしかしたら裏切られた気持ちだったかも知れません。

かなりガックリ来たかも知れません。

 

しかしキャリア終盤に来てヒールとして生きていく事を決めた飯塚は、最後の最後までヒールである事を選びました。

どんなにファンに求められようと、怨念坊主を貫く事を選んだのです。

 

この引退試合の結末を残念に思う人も多いでしょうが、己れの信念を貫き通した飯塚は、プロとして立派だったと思います。

そう意味では、飯塚は紛れもなく本物のプロレスラーでした。

 

2019年2月21日は、飯塚高史が怨念坊主として自分の信念を貫き リングを去った日でした。