武藤敬司のエメラルドフロウジョン

プロレス界には数多くのオリジナル技があり、それらが話題になったり良い技であればある程に、他者によって直ぐに真似をされる傾向があります。

人の技を真似する事が悪い訳ではないし、飽和状態のプロレス技に置いては、それもしょうがない事だと思います。

 

しかし同じ誰かの真似をした技だとしても、そこには大きな意味が込められている場合もあります。

その最も足るものが、対戦相手の…もしくは対戦が決定した相手への挑発として相手の得意技を繰り出す場合です。

掟破りの○○と言うのは、プロレスで良く見られる光景ですよね。

 

そしてその中でも個人的に印象深かったのが、デビューしてから長年比較され続けてきた2人の天才レスラー武藤敬司と三沢光晴の闘いです。

この二人は、新日本と全日本と言う決して交わることの無いであろう二大メジャー団体にそれぞれ所属していたのですが、2000年代に入りプロレス界は大きく動きだし、三沢は全日本を退団しNOAHを旗揚げすると 入れ替わるように武藤は全日本に移籍。

 

ここでようやく二人に、接点が生まれます。

2004年に開催されたNOAH初の東京ドーム大会で、何と長年誰もが夢見ていた武藤と三沢の対決がタッグながら実現したのです。

 

それを強く意識していたのは、どちらかと言えば武藤の方でしょうか。

ドーム決戦を前に控えて 自団体のリングでエメラルドフロウジョンを発射し、三沢に向けて強烈なデモンストレーションを敢行したのです!

これは、なかなかの驚きでした。

当時の武藤は、既に膝がかなり悪く相手を持ち上げる技なんてのは、ほとんど使っていなかったので、それがまさかエメラルドフロウジョンとは…

しかも普段は、武藤が絶対に使わない垂直落下式の技。

それだけ三沢光晴に対しての思いは、強かったと言う事なんでしょうね。

 

そして実際に迎えた対決時では、三沢の眼前で見せつけるかのように、パートナーの小川良成に対してエメラルドフロウジョン!

この決まり具合がこれまた凄く「もしかしたら三沢より巧いんじゃね?」と思わせる程の物でしたが、この後すかさず飛び込んできた三沢に、掟破りのシャイニングウィザードでお返しをされており、この攻防には東京ドームが沸きまくりました。

 

この時は当人同士とそのファンが長年待ち続けて来た 新日本と旧・全日本時代からの流れを組む”プロレス界の両巨頭の初遭遇”と言う 滅多にお目にかかる事の出来ない特別なシチュエーションが全て良い方向に作用して 2人の織りなす技や動き・・・全てが興奮に成りえる物でした。

そんな状況下での武藤のエメラルドフロウジョンですから、そりゃあ場内も「うおぉぉぉっっ」ってなりますよ。

あの時の興奮は、壁が取っ払われた現代のプロレスでは、中々難しいんでしょうかね。

 

2009年の三沢の急死により、2人の対決はこの一度きりで終わってしまい、夢の続きは見れなくなってしまいましたが、2021年には運命のいたずらか紆余曲折を経てNOAHの所属となっていた武藤敬司が、”三沢光晴メモリアル2021”にて エメラルドフロウジョンを三沢の弟子である丸藤正道に放ったのは、天国へと捧げる三沢へのメッセージだったと思います。