若手時代から厳しいトレーニングに耐えて キャリアを積み重ねるも これといったチャンスにも恵まれず、又はチャンスを物に出来ず輝かしい実績とは縁がないレスラーは、腐る程居るでしょう。
プロレスも厳しい世界なので、全員がピラミッドの上層部に行ける訳もなく、スポットライトを浴びる機会が少ない選手が居るのもしょうがない事です。
それでも自分の応援している選手が、現在燻っているとして 僅かなチャンスを物にして光り輝く瞬間があったなら ファンとしてこんな嬉しい事はない筈
それを体現した典型的なレスラーが、保永昇男でしょう。
1980年に、デビューした保永は控えめな性格と地味なスタイルのせいか、決して目立った選手でもなく これといった実績もなく長年燻り続けていました。
一念発起して髪の毛を染め上げ ヒール集団ブロンドアウトローズの一員となるも メンバー唯一のJr.ヘビー級と言う事もあり 自然と負け役が多く どうしても地味な中堅から脱する事が出来ませんでした。
そんな中で、数年ぶりに開催された新日Jr.の最強決定リーグ戦トップオプザスーパーJr.
日本人選手の人材不在と言う事もあり 獣神サンダー・ライガーは当然として エントリーされた選手の中には、何と保永の名前もありました。
出場選手を見て「保永は白星配給係の人数合わせだな」と殆どの人が思ったでしょう。
しかし そんな声が保永に届いていたのか、ベテランの意地と研鑽された技術を武器に、白星を重ねに重ね 気がついてみたら何と決勝進出を果たしてしまったのです。
これだけでも相当な予想外でしたが、決勝の相手は新日Jr.の象徴ライガー
このリーグ戦の優勝者には、IWGPJr.ヘビー級も懸けられている事もあり、さすがに、ここで保永がライガーに勝利すると思った人は、居なかったでしょう
これまでの保永からすれば、ここまで来ただけで上出来なのだから準優勝と言うだけでも立派な勲章にはなります。
保永の奥さんですら「ライガーに勝てる訳ないでしょ」と言ってた位なので。
(旦那を信じてやれよ!!)
しかし しかし誰もが予想しなかったラストが、待っていました。
一進一退の攻防の末 ライガーのバックをとった保永は、ライガーの腕を正面で交差させ手首を掴んでのスープレックス!
まさかのクロスアームスープレックスで、あのライガーから完璧なフォールを奪いスーパーJr.初優勝!!
これまでパッとしなかったベテラン選手が、新日Jr.最高の舞台で、新日Jr.最強の男を倒し 新日Jr.の至宝を手に入れたのだから 保永ファンからすれば最高の気分だったと思います。
苦節11年にして初めて掴んだ栄冠は、とてつもなく大きく ここから保永は地味ながらも ここぞと言う時で大仕事をやってのける誰からも一目置かれる選手になっていきます。
これ以降 稀ににクロスアームスープレックスを奥の手として繰り出す事も有ったのですが、スーパーJr.決勝の大舞台で、今まで使った事も無い意外な技でフィニッシュと言うのが、これまたインパクトがあった訳です。
同年に行われた第一回のG1で、蝶野正洋がパワーボムで優勝したのと同じパターンですね。
しかし当の本人は、飄々とした物で「最後の技は狙っていたのか?」の問いかけに「そこに両腕があったから持っただけだよ」と何とも最後まで保永らしい言葉でした。