井上亘のオラシオンフレイム

不器用ながらも一直線ファイトが信条の井上亘でしたが、ああ見えて定期的にオリジナル技を開発していて、常にプロレスと向き合い、技の研究には余念がありませんでした。

しかし その実直過ぎる性格から、思い詰め過ぎる事もあり、なかなか結果を出せない自分にもどかしさを感じ、2007年には、全てを投げ出して失踪してしまった事があります。

 

その時に遠く離れたメキシコの地で、何かが吹っ切れたのか戻ってきた井上は、タッグマッチながら当時のIWGPJr.ヘビー級王者の田口隆佑からギブアップを奪い、その勢いと実績を買われ 今度はIWGPJr.ヘビー級選手権として再び田口と激突。

一進一退の攻防の末に、井上が繰り出したのは、スタガリンブローの様に爪先をつかんでフィッシャーマンバスターの体勢で持ち上げて、後方に落とすのではなく、相手を反転させながら真下に後頭部や背中から、シットダウン式でマットに叩きつける技。

 

単身メキシコに渡った際に編み出した新技 オラシオンフレイムです。

この初公開の大技から、一気にファイナルランサーに繋ぎギブアップを奪うと 遂に悲願のIWGPJr.ヘビー級を奪取したのです。


フィニッシュこそ、ファイナルランサーでしたが、実質的な決め手は、このオラシオンフレイムだったと敗れた田口自身が試合後に語っている様に、強烈な威力を誇る技です。

公開当初は井上には、余り似合わない技かなとは思ったし、出来る事ならトライアングルランサーにとことん拘って欲しかった・・・と言うのはありますが、井上は自身のオリジナル技のスタガリンブローに更に改良を加えた この技を大事に使っていきます。 

 

2008年の防衛ロードでは、TNAから送り込まれた強豪クリストファー・ダニエルズを2度に渡り退けたのもオラシオンフレイム。

田口とのリマッチを制したのもオラシオンフレイム。

ヘビー級転向後の石井智宏との抗争では積み重ねた椅子の上に、オラシオンフレイムと言う破天荒な攻撃で、抗争に終止符を打ったりと、オラシオンフレイムはこの時期の井上にとっては、正しく最上級であり切札でした。

 

ただ難点を挙げるとするなら、スタガリンブローの時も思っていましたが、相手を持ち上げるのに足を抱えるのではなく 爪先をつかんで・・・と言うのはどう考えても持ちあげ難いと言う事。

重量級の相手には、絶対に掛けにくい技だと思います。

しかも落とす時にしても、爪先を掴んでいるだけでは体重を乗せにくいし お世辞にも合理的な技とは言えないでしょう。

 

卍固めからスタガリンブローときて・・・そしてオラシオンフレイム 井上は爪先を掴む事に、拘りでもあるんでしょうか? どうせ拘るなら 爪先を掴む事よりもトライアングルランサーに拘って欲しかったんですけどね。 

とは言っても、例え意味が無いとしても こう言う独創的なオリジナル技と言う面では好きな技ではあります。

 

公開当初は、変形スタガリンブローや変形ファルコンアローと呼ばれていたが、ダニエルズに防衛した後に、オラシオンフレイムと正式に命名。

オラシオンとは、井上が学生時代に愛読していた宮本輝作の『優駿』という作品に登場する名馬の名前で、フレイムとは炎。

この2つを混ぜ合わせた造語である。

井上の入場曲『Countdown ignition』の意味が”着火”な事から、登場する時に着火して、フィニッシュ時には炎になると言う意味を込めて 思い入れのある言葉2つを組み合わせて命名したのだと本人は語ります。

 

それだけ思いれを込めて技名まで作られたのに、スピアーオブジャスティスを開発してからは、結局オラシオンフレイムは、かなり影が薄い技になってしまうんですけどね。

井上がヘビー級転向にしたと言う事は、周囲も大きくて重い相手ばかりになるので、オラシオンフレイムの掛け難さを考えると、これはしょうがない事でしょうか。